自動制御web講座

5. 実用上のポイント

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5.4. ノイズの問題


5.4.(1) ノイズとは

◆ 現実の問題として重要なのが、ノイズです。ノイズが制御に影響を及ぼします。
ノイズ とは、欲しい、必要な信号に対して、不要な、さらには有害な、信号をいいます(図 5-13)。

[図 5-13] ノイズの分類

ノイズの分類

◆ 単に不要であって、何も害を及ぼさなければ、欲しい信号にノイズが混入していても、差し支えありません。問題になるのは、有害なノイズです。
ノイズは、一般に、必要な信号に対して、同等または、より高周波のものが多く乗ってきます。必要な信号よりも、周波数が低いものもありますが、通常は、ドリフトと呼んでいます。
ドリフトは、信号の誤差と同等な、影響を及ぼします。信号に誤差があっても、コントローラは、その誤差を含んだ信号によって動作します。制御結果も、誤差を含みます。制御変数の誤差は、オフセットと同等な影響を与えます。操作変数の誤差は、制御動作に I 動作を含んでいれば、影響を無くすことができます。
ノイズは、信号よりも高周波のものが多いので、一般に、ローパスフィルタによって除去することができます。
ノイズは、また、制御対象自体に含まれているものや、センサ、コントローラなどで発生し、または乗ってくるものとがあります。
伝送路やコントローラの電子回路に関するノイズは、一般的なノイズです。これらについては、十分なノイズ対策が施されているものとします。これに関しては、別のweb講座「よく分かる 実用ノイズ対策」を参照してください。

5.4.(2) 制御対象に含まれるノイズ

◆ 制御対象自体に含まれるノイズについては、制御の問題に固有の面があります。
制御変数と別な変数が、制御変数として計測されてしまうという、ノイズないしは誤差があります。制御変数として計測されてしまえば、これを取り除くことは不可能です。このノイズは、制御変数として検出されることが無いように、対策する必要があります。
ただし、信号とノイズとの間に周波数帯域 (周波数の範囲)に差があれば、フィルタで分離することができます。

5.4.(3) ノイズの問題が発生しやすいところ

5.4.(3-A) ディジタル制御

◆ ディジタル制御は、アナログ制御に比べて、ノイズが問題になりやすいのです。ディジタル制御では、サンプリングの問題があるからです(4.1.2.(5-A))。
サンプリング定理に違反すると、高周波のノイズが、低周波に化け、信号と同じ周波数帯域のノイズになります。信号と周波数帯域が重なると、もはやフィルタで取り除くことは不可能です。
4.2.3 で、PI 動作PD 動作PID 動作の周波数応答を示しました。これらの応答波形は、制御演算とサンプルアンドホールドとを組み合わせたものです。サンプリング定理は、考慮されていません。しかし、ノイズの問題を考えるときには、サンプリング定理を考慮する必要があります。
サンプリング定理違反は、サンプリングのところで発生します。そして、そこで発生したアリアスホールドされます(図 5-14)。

[図 5-14] サンプリング定理違反の場所

サンプリング定理違反の場所

◆ サンプリング定理に違反すると、アリアスが発生します。アリアスは低い周波数に化けますから、その低周波に化けた信号を、ホールドしてしまいます。必要な信号に対しては、この問題が発生しないように、サンプリングを行います。
しかし、ノイズは高周波です。このノイズが、サンプリングに違反する条件になっていると、アリアスが発生し、ノイズを低い周波数に化けさせます。こうなっては、手の打ちようがありません。
サンプリングの前に、アナログフィルタを挿入して、ノイズをカットします(図 5-15)。これに備えて、容易にアナログフィルタを挿入できる端子だけを、予め設けておき、必要が生じたら、フィルタを挿入できるようにしておくと良いでしょう。

[図 5-15] サンプリングの前にフィルタを入れる

サンプリングの前にフィルタを入れる

◆ アリアスが発生し、かつそれが問題になった実例を紹介しておきます。流量制御系の例です(図 5-16)。ただし、特殊なケースであり、通常発生するものでは、ありません。

[図 5-16] 流量制御系

流量制御系

◆ ポンプで液を加圧し、それを調整弁で絞って流量を制御しています。調節弁 は、アクチュエータと組み合わせたバルブです。
このポンプは、脈動がありますが、脈動の周期は、1.3s ですが、フィードバック制御で脈動を消すことはできません。したがって、この流量制御系にとっては、脈動はノイズです。
図 5-17 は、アナログ制御したときの応答です。

[図 5-17] アナログ制御

アナログ制御

◆ 制御変数 PV に脈動があります。コントローラ出力は、これを打ち消そうとして変化しています。しかし、調節弁の遅れのために、流量が追随できず、制御でこれを消すことはできません。
図 5-18 は、同じ制御対象を、ディジタル制御した場合で、サンプリング周期 1s です。サンプリング定理に違反していますから、アリアスが発生しています。

[図 5-18] ディジタル制御(サンプリング定理違反)

ディジタル制御(サンプリング定理違反)

◆ 図 5-19 は、サンプリング周期を 0.5s に変えたものです。アリアスがなくなり、アナログと同等の制御になっています。各図とも、値が 2% 変化していますが、これは目標値を変化させたためです。

[図 5-19] ディジタル制御(サンプリング定理満足)

ディジタル制御(サンプリング定理満足)

◆ この例では、サンプリング周期を変えることによって、解決しました。
しかし、フィルタを使用しなければならない場合もあるでしょう。

5.4.(3-B) 微分動作

◆ ノイズで問題になるものに、微分動作があります。微分動作は、アナログ制御でも、問題になります。ディジタル制御では、さらに上記のサンプリングの問題が加わります。
一般にノイズは、信号よりも高周波です。微分は、ノイズを不当に増幅します(3.1.3.(5-B-a))。対策としてフィルタを含む式を使用します(3.2.4.(3-B)3.2.4.(4-A))。しかし、その副作用をゼロにすることはできません。
制御対象が含むノイズは、制御対象によって異なります。微分動作に含まれいるフィルタで十分なこともありますが、足りないこともあります。別にフィルタを取り付けることが必要なことがあり得ます。
◆ 場合によっては、副作用が大きくて、微分動作を利用できないことも、あり得ます。
ノイズが原因であるとは限りませんが、微分動作は、出力を大きく変化させます。
このため、操作変数がゼロになることがあります。一般には、操作変数が一時的にゼロになることがあっても、操作能力が制約されて、制御成績に影響を与えるだけです(5.5.(2)参照)。しかし、たとえば、操作変数が燃料の流量である場合には、危険に結びつく可能性があります。燃料は、1 時的に止まると、爆発の恐れがあります。


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