自動制御web講座

6. モータの制御

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6.2 速度制御と位置制御


6.2.2. モータの位置制御

6.2.2.(1) 概   要

◆ モータの位置制御は、アクチュエータや、ロボットの制御として、多く使用されています。アクチュエータ自体は、直線的な動きが多いので、回転運動を直線的な位置に変換します。
しかし、位置の検出は、直線的な位置よりも、回転角度の方が簡単です。回転角度の検出には、ロータリエンコーダが多く使用されています。
このため、最終的な制御目的は、直線的な位置であっても、フィードバック制御の制御変数は、回転を直線的な位置に変換する前の、回転角度を使用することも多いのです。
6.1.4.(1-B)で述べたように、回転系も、直線系も、モデルの式の形は同じです。したがって以降は、特に区別しなで説明します。
ただし速度制御は、回転系として取り扱いましたから、記号はそれに合わせて、回転系のものを使用します。

6.2.2.(2) 位置出力の特性

6.2.2.(2-A) 積分を含む

◆ シミュレーションモデルそのものは、速度制御と同じですが、位置 ND は、速度 NS を積分しています(図 6-2-27)。

[図 6-2-27] 位置制御のモデル

位置制御のモデル

◆ 制御対象の特性に積分(1/s)(3.1.3.(5-A))を含みます。積分は、位相遅れがありますから、速度制御に比べて、制御応答が遅くなります。
また、積分を含む制御対象は、入力がゼロのとき、出力はその値を保持し、入力がゼロでないときは、変化しつづけます。
すなわち、定常値は無限大であり、定常状態におけるゲイン(s→0)も、無限大になります。

6.2.2.(2-B) 定位性と無定位性

◆ 一般の制御対象は、入力値が決まると、それに対応して出力値が決まります。この性質を、「定位性 」といいます。
これに対して、積分を含む制御対象は、入力値を与えても、出力値は決まりません。この性質を「無定位性 」と呼んでいます。
電圧入力に対するモータの位置は、無定位性制御対象の代表例です。
また、液面系(3.1.3.(1-B-b))も、基本的には無定位性です。3.1.3(1-B-b) では、液面系を1 次遅れの代表例として紹介しました。それは、図 3-1-18 において、流出流量 qo が、液面高さ h に比例するという条件が入っているからです。
純粋に液面系であれば、すなわち、流出流量 qo が独立であれば、式 3-1-11 から、液面高さは、
   H = ( 1 / A s )・( Qi - Qo )
ですから、流入または流出流量に対して、積分特性になります。
◆ 以上のように、無定位性の制御対象は非常に身近に、かつ多数存在します。しかし通常は、制御対象は定位性であるものとして、取り扱われています。
無定位性の制御対象は、とくに、入力ゼロを容易に実現できないときは、出力が変化しつづけるので、取扱に注意が必要です。

[コラム 6-2-3] 液面の制御

★ 液面の系(図 3-1-18)は、積分の入力が、流入流量 qi と流出流量 qo との差です。
流入/流出を共にゼロにすることは容易です。このときは液面は変化しません。
しかし、液を流しながら差をゼロにすることは、一般に困難です。流入流量 qi と流出龍量 qo とを、同じにしたつもりあっても、僅かに差があれば、液面は変化し続け、遂には、溢れたり空になったりします。
★ プロセス制御の分野は、他に、さきがけて、フィードバック制御が取り入れられた分野です。その理由が、液面の制御だったのです。手動運転の時代には、液面の制御は、非常に人手が掛かる作業でした。
制御対象が無定位性であっても、フィードバックすれば、定位性になります。

積分特性はフィードバックによって1次遅れになる

★ プロセス制御においては、液面制御が、非常に多く使用されています。
しかし液面は、正確に制御しなけければならないことは稀です。
それにも関わらず多数使用されているのは、定位性を持たせて、安定かつ省力の運転を行なうことが目的です。

★ これに対して、モータは、入力電圧を、簡単にゼロにすることができます。入力 ゼロ が保証されれば、積分の出力は、値は保証されませんが、一定に保たれます。
同じく無定位性ですが、アクチュエータとして、フィードック制御無しに、多く使用されています。



6.2.2.(2-C) モータにおける積分特性の効用

◆ アクチュエータとして、1つの好ましい特性は、入力と出力とが比例することです。モータは、これを満足することができません。
アクチユエータとしての、もう一つの好ましい特性は、ホールド特性です。モータは、この特性を実現することができます。
モータの積分特性によって、モータの入力をゼロにすれば、モータは停止します。

[注]  上記の 2 つの特性は、両立しません。

6.2.2.(3) モータ単体の制御

6.2.2.(3-A) 出力リミット無し

◆ 出力リミット無しのステップ応答を図 6-2-28 に示します。

[図 6-2-28] モータ単体 位置制御(出力リミット無し)

モータ単体 位置制御(出力リミット無し

緑、青 : PI 動作、 赤、黄 : P 動作、 ND : 位置、VI : 電圧

◆ モータの位置制御では、目標値をステップ状に変化させることは少なく、ほとんどが追値制御です。しかし、ステップ応答は、制御応答を比較する基準として有用です。
制御動作は PI 動作( KP = 13、TI = 50ms )、および P 動作のみ( KP = 18 )の両方です。P 動作だけでも、オフセットはありません。
これは、制御対象のモータに、積分特性を含んでいるので、この積分が、制御の積分動作と、同じ働きをしているからです。
制御対象の積分は、位相の遅れがありますから、速度制御に比べて、制御応答が遅くなっています。
P 動作だけでオフセットがゼロになりますから、この意味では、PI 動作は不要です。しかし、(3-C)で示すように、外乱に対しては、P 動作だけではオフセットが出ます。
外乱が予想されなければ、I 動作は要りません。しかし外乱があるなら、PI 動作が必要になります。
PI 動作では、P 動作よりも応答が悪くなっています。I 動作が加わる分、さらに位相が遅れるからです。

6.2.2.(3-B) 出力リミット有り

◆ 出力リミットが無いと、入力電圧 VI のピークが大きいので、リミットを設けます(図 6-2-29)。

[図 6-2-29] モータ単体 位置制御(出力リミット有り)

モータ単体 位置制御(出力リミット有り)

緑、青 : リミット有、 赤、黄 : リミット無

ND : 位置、NS : 速度、VI : 電圧、CU : 電流

◆ 当然、制御応答は遅くなっています。電圧 VI がリミットされて、一定になっている期間が長いので、その間に電流 CU が低下しています。
そしてこの間は、最初の立ち上がりを除いて、ほぼ定速度になっています。

6.2.2.(3-C) 外乱に対する応答

◆ トルクの外乱に対する応答を、図 6-2-30 に示します。

[図 6-2-30] モータ単体 位置制御(トルク外乱)

モータ単体 位置制御(トルク外乱)

緑、青 : PI 動作、 赤、黄 : P 動作

◆ 外乱に対しては、PI 動作( KP = 13、TI = 50ms )は、コントローラの I 動作によって、オフセットがありませんが、P 動作のみ( KP = 18 )では、オフセットが残ります。
外乱に対しては、制御対象の持つ積分特性が、オフセットを無くす働きをしないからです。
3.2.4.(1-A)に示したオフセットを評価する式 3-2-5 は、制御対象が定位性であることを前提にしています。しかし、モータの位置出力は、無定位性です。
図 3-2-35を、図 6-2-31 のようにモディファイします。

[図 6-2-31] モディファイした図

モディファイした図

◆ その上で、式 3-2-5を使用して、s = 0 と置けば、定常偏差 ED は、
   ED(0) = ( GD(0)・TD / (GC(0)・GP(0) )
となります。
この式から、コントローラが I 動作を含むときは、オフセットがゼロになり、コントローラが P 動作のときは、オフセットはゼロにはならないことが分かります。

6.2.2.(3-D) 追値制御

◆ アクチュエータや、ロボットでは、目標値のパターンを与えた追値制御が、多く用いられます。台形制御の場合を図 6-2-32示します。

[図 6-2-32] 位置制御(台形制御)

位置制御(台形制御)

ND : 回転角度、SP : 目標値、NS : 回転速度、VI: 電圧、CU : 電流

◆ 良好な制御を行なっています( PI 動作、KP = 13、TI = 50ms )。電圧 VI をみると、リミット以内に収まっています。
リミットに引っ掛かれば、制御成績が悪くなることが予想されます。故意にリミットを狭くして見ます(図 6-2-33)。

[図 6-2-33] 位置制御(台形制御、リミット狭)

位置制御(台形制御、リミット狭)

ND : 回転角度、SP : 目標値、NS : 回転速度、VI: 電圧、CU : 電流

◆ リミットに掛かったことによって、変化時に大きな遅れが発生しています。追値のときにリミットに引っ掛からないような、十分な能力を持つモータが必要です。
当然のことですが、自動制御によって、装置の持つ能力を、増加させることはできません。自動制御は、装置自体の持つ能力を、フルに引き出すことに役立ちますが、それ以上のことはできません。
ただし、リミットへの引っ掛かり方が小さくて、起動時のピークだけが引っ掛かったときは、起動の遅れが大きくなるだけで、このような激しいことにはなりません。


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