データ伝送web講座

6. 符号化と変調

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6.2. 符号化と同期

6.2.(1) データにクロックを含ませる

◆ 図.4 に示したように、符号化によって、データの中にクロック情報を含ませて送ることができます。このとき、符号の種類によって、含まれるクロック情報の程度が異なります。図.5 では、これを完全、不完全(1)、不完全(2) で区別しています。
完全は、毎ビットに、クロック情報を含んでいますから、符号からクロックを抽出することは、比較的簡単です。不完全(1) は、それ自体では、クロックが保証されませんが、データの性質と組み合わせることによって、何ビットかに 1 回の割合で、クロック情報を含ませることができる符号です。
◆ これに対して、不完全(2) は、それも不可能です。ただし、特定の場合には、何ビットかに 1 回の割合で、クロック情報を含ませることができます。
また、符号の性質を利用するのではなく、データとは別に、クロック情報を付加して送る方式もあります。たとえば、非同期式の伝送では、スタートビット/ストップビットを付け加えて送ります。
クロック情報を、データと同じ回線で送る方式は、その他にも、色々な方法があります。

6.2.(2) 各種の方法

6.2.(2-A) 完全クロック

◆ バイフェイズ符号の例を示します(図.18)。

[図.18] バイフェイズ符号のクロック抽出回路

バイフェイズ符号のクロック抽出回路

◆ バイフェイズ符号では、エクスクルーシブオアで、立ち上がり/立下りの両エッジを検出します(図の(C))。このとき、送られてくるデータが、ゼロだけ、または 1 だけの連続だと、ビットの境界と中央の両方に変化があります。
ビットの境界と中央との区別が付きません。したがって、1/2 の確率で、誤ったクロック抽出となります。データに、0 → 1、または、1 → 0 の変化があったときに、正しいクロックを抽出することができます。
◆ このような現象は、他の符号でも存在します。差動バイフェイズ符号では同相が続いたとき、f/2f符号では高い周波数が続いたとき、同期が正しく取れないことがあります。
伝送開始時に、送信側から、正しい同期を取ることができるデータ列を、送信することが必要です。このような、実データ送信に先立って必要なテストデータを送り、正しい同期を取らせることを、プリアンブル といいます。

6.2.(2-B) 不完全クロック(1)

◆ RZ 符号、バイポーラ符号、AMI 符号は、不完全クロック(1) に属する符号です。これらの符号は、データの 1/0 を、パルスの有無で区別しています。1 がパルス有りを例に説明します。データが 1 のときはクロック情報がありますが、データがゼロのときはクロック情報がありません。
したがって、クロック情報を保証するためには、ゼロが長く連続することが無いように、データ自体にその性質を持たせることが必要です。
◆ たとえば、データをキャラクタ単位で送り、キャラクタに奇数パリティをつけます。このときは、パリティビットを含むキャラクタの中には、少なくとも 1 つの 1 が保証されます。
HDLC では、ゼロインサートによって、ゼロが、少なくとも6ビットに 1 回現れます。ゼロをパルス有りに選ぶことによって、クロックが保証されます。
不完全クロック(1) では、クロック情報が飛び飛びです。この飛び飛びクロックから、連続したクロックを取り出します(図.19)

[図.19] 不完全クロックからのクロック抽出

回路 タイムチャート

6.2.(2-C) 不完全クロック(2)

◆ 不完全クロック(2)に属するNRZ 符号やダイコード符号は、データの 1 またはゼロのどちらかの間隔が保証されてだけでは、クロック抽出能力はありません。しかし、NRZ で、データが奇数ビットで、奇数パリティを行っているという、特別場合には、クロックが保証されます(図.20)。

[図.20] クロック抽出が可能な NRZ 符号

クロック抽出が可能な NRZ 符号

◆ 不完全クロック(2) では、データにクロックを含ませるための、一般的手法はありません。

6.2.(2-D) スクランブル

◆ 符号化ではありませんが、データにクロックを含ませるユニークなやり方に、スクランブルがあります。スクランブルは、同期式 モデムで、使用されている手法です。
モデムでは、伝送データに制約を設けることはできません。どんなビットパターンであっても、通すことが必要です。
◆ この意味では、完全クロックが望ましい訳です。しかし、完全クロックの符号を使用すると、NRZ に比べて、信号周波数が 2 倍になります。これも好ましくありません。
モデムでは信号を変調します。変調によって、信号の周波数帯域が狭くなります。変調される元データの、周波数帯域を狭くする要求はありません。
◆ スクランブル とは、ごちゃ混ぜにすることです。元データのビット列の、各ビットの 0/1 を、ランダムに変換します。ランダムに変換するとは、元データの 0/1 を 0/1 のままで変換しないのか、0/1 を 1/0 に変換するのかを、ランダムに行うということです。
この結果として、元データが 0 の連続であったとしても、スクランブルした結果は、0 と 1 とが入り混じります(図.21)。

[図.21] スクランブル

スクランブル

◆ スクランブルによって、ごちゃ混ぜだったデータが、逆にゼロまたは 1 の連続になることも考えられますが、その確率は十分に低く、心配はありません。
ただし、完全にランダム化したのでは、元に戻すことができません。ある一定の規則に基づいて変換を行い、変換されたデータが、ランダムの性質を持つようにすることを、擬似ランダム化 といいます。
◆ 一定の規則に基づいていますから、スクランブルしたデータを元にもどすことができます。擬似ランダム化回路の例を図.22 に示します。

[図.22] 擬似ランダム化回路

擬似ランダム化回路

6.2.(2-E) 4B/5B 符号

◆ これも、符号化ではありませんが、データにクロックを含ませる手法の 1 つです。4B5B 符号 は、4 ビットのデータに 1 ビット付け加えて 5 ビットにします。このとき、一定の位置にビットを付加するのではなく、5 ビットのデータが取り得る 32 パターンの中から、特定の16 のパターンを選んだ、変換テーブルを使用して変換します。
◆ 変換された 5 ビットのデータは、クロック成分が保証されます。また、長期間での、1 とゼロとの比率が等しいので、1/0 をプラス/マイナスの電圧にしたとき、直流成分が、少ないという特徴があります。4B5B 符号のビットパターンの一部分を表.1 に示します。

[表.1] 4B5B 符号のビットパターン(1 部分)

 データ  4B5B 符号 
 0000  11110 
 0001  01001 
 0010  10100 
 ・・  ・・ 
 1111  11101 


◆ 4B5B 符号と同様な目的のものに、8B6T 符号 があります。これは、8 ビットのデータを、6ビットの 3 値符号(+/0/-)に変換するものです(表.2)。

[表.2] 8B6T 符号(1 部分)

 データ  8B6T 符号 
 0000 0000  +-00+- 
 0000 0001  0+-+-0 
 ・・  ・・ 
 1111 1111  +0-+00 


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