データ伝送web講座

12. 無線伝送

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12.2. 携帯電話と PHS

[コラム.1] データ圧縮

★ オーディオやビデオの信号は、データ圧縮 (圧縮)によって、データ量を減らします。圧縮したデータは、元のデータに復元して使用します。復元のことを、解凍 と呼んでいます。
圧縮は、情報がもっている性質を利用します。

圧縮の効果

★ 圧縮は、そのやり方によって、2 種類に分けられます。

圧縮の種類

★ 1 つは、元の情報を損なわないで、元の情報が持っている冗長性を減らすことによって、少ないデータ量で情報を表します。この方式では、圧縮されたデータから、元の情報を完全に復元することができます。
もう 1 つは、人間の感覚の特性を利用して、人間には分からないように、情報量そのものを減らします。この場合は、圧縮したデータから、元の情報を完全には、復元できません。
人間が認識できる品質の劣化を、ある程度許容するなら、圧縮の程度をさらに高くすることができます。
★ 圧縮の代表例は、音響信号と、画像等の 2 次元信号とです。3 次元信号は、圧縮効果は、2次元信号よりも、さらに大きいはずです。しかし、現状では、3 次元信号を、まともに取り扱うことは少なく、2次元によって、擬似的に表示します。したがって、2次元に帰着されます。
いずれも、アナログ信号をディジタル化して、ディジタルで圧縮を行います。
圧縮して伝送を行う一般的な手順を示します。

圧縮/伝送の一般的手順_

★ 図で、多重化は時分割多重化です。他のデータとの多重化も含みます。しかし、他のデータが無くても、復号化のために必要な、同期情報やパラメータ等がありますから、これを多重化しています。
音響、ビデオのデータは、リアルタイム性が要求されます。伝送誤り制御は、誤り訂正符号(誤り訂正コード)による、誤り検出訂正方式を使用します。
★ 圧縮手法の概念を示します。この図は、前の図の「信号源符号化(データ圧縮)」と「信号源符号化(データ復元)」の部分を抜き出したものです。

データ圧縮の手法

★ 図で量子化は、具体的にはA/D変換です。連続のアナログ量をディタル化すると、飛び飛びの非連続量になります。この飛び飛びにする作業を量子化 と言います。逆量子化は、飛び飛びの値を連続量に直す作業です。
予測 とは、前回以前の値から、現在値を予測推定する作業で、圧縮の中心となる仕事です。

予測

★ 図は、2 回前(tn-2)と 1 回前(tn-1)の値から、現在(tn)を予測しています。図の予測の方法は、単なる直線外挿ですが、さらに高度なものを使用できます。
この図は送信側ですが、受信側でも同じ予測を行います。そして、予測値に、送られてきた値を加えて、現在値を求めます。
送信する値は、差分ですから、絶対値を送るのに比べて桁数が小さく、圧縮になっています。
★ 圧縮の、もう 1 つの手法として、非線形性の利用があります。簡単な例として、音声信号の例を示します。人間の耳は、小さな変化に対して感度が高く、大きな変化には感度が低い性質があります。この性質を利用して、量子化のステップ幅を変えます。

量子化のステップ幅を変える

★ この方式は、ISDNA/D 変換で使用している方式です。A/D 変換桁数が、僅か 8ビットであるにも関わらず、音質が良いのは、この理由によります。
ビデオは、2次元ですから、2 次元であることを利用した圧縮を行っています。説明は省略します。
なお、データ圧縮では、ありませんが、人は、立体を 2 つの目で見ることによって認識しています。

人の目による立体の認識

★ すなわち、2 次元画像 2 枚によって、3 次元を擬似的に、表すことができます。




12.2.(2) P H S

◆ PHS は、1台の電話機で、コードレス電話 (構内用ワイヤレス電話)、トランシーバ (簡易相互通話装置)と、公衆電話としての携帯電話の用途を兼ねることができます(図.10)。図から分かるように、有線網に ISDN を使用しています。PHS 自体も、ISDN との親和性が高いので、この意味で、優れたシステムになっています。

[図.10] PHS システム

PHS のシステム

◆ PHS のシステムも、基本的にはセルラシステムです。ただし、携帯電話よりも、簡略化されています。電波は、1.9GHz 帯を使用しています。信号レベルが低く、したがって、セルの面積は、小さくなっています。サービスエリアは、携帯電話に比べると狭いのですが、日本全国の大部分をカバーしていますから、一般的、日常的な用途には、支障ありません。
登場した当初は通話中の基地局の変更(ハンドオーバー )ができず、高速移動中(電車・自動車など)に通話ができないなどの欠点がありましたが、そうした欠点は現在ではほとんど解決されています。
◆ PHS の、用途として注目されるのは、たとえば病院の医療機器 などに障害を与えないことです。携帯電話は、医療機器の動作を妨げることがあります。病院では、医療機器に障害を与えるために、携帯電話の使用を禁止しています。しかし、病院内部の電話としてPHS を利用することができます。PHS が医療機器に接近して使用可能なのは、携帯電話と比べて、電波が微弱だからです。
昔、オートメーション用の工業計器の調整に、トランシーバを使用して、そのトランシーバが、計測器に妨害を与えたことがあります。この用途にも、PHS は、多分問題なく使用できると思います。
◆ PHS では、音声を32kビット/秒に圧縮しています(ISDN は 64kビット/秒です)。携帯電話が、5.6kビット/秒に圧縮しているるのに比べると、圧縮率が低く、したがって、音質が良いことが特徴です。また、当然のことですが、ディジタルデータの伝送も、32kビット/秒と高速です。PHS を 2 チャンネル使用して 64kビット/秒として使用できます(図.11)。さらに、128kビット/秒も可能であり、256kビット/秒も視野に入っています。

[図.11] 複数チャンネルを束ねて使う

複数チャンネルを束ねて使う

◆ PHS は、現在では、携帯電話としての用途には、あまり使われていませんが、上記の特徴を活かして、ディジタルデータ用に多く使われています。

12.3. ワイヤレス LAN と ブルートゥース

12.3.(1) ワイヤレス LAN

◆ LAN は、企業、個人を問わず、必須の存在になっています。パソコンが 1 台だけのシステムでも、ブロードバンドインターネットに接続する場合に、ルータを使用すれば、LAN機能が使われます。従来は、有線のブロードバンドルータが使われてきましたが、配線が煩雑であり、使用場所も固定されてしまいます。このようなことから、事実上ほぼ固定して使う場合においてすら、ワイヤレス LAN が利用されるようになってきました。
また、最近では、公共の場所や、多くの人が集まる店舗などに、パソコンをインターネット等に接続することができる、LAN のアクセスポイント (ホットスポット )が設けられています。外出時にパソコンを、インターネットや、企業のネットワークに接続する場合、携帯電話を利用して接続することもできますが、伝送速度が遅いので、快適に使うことができません。アクセスポイントを利用すれば、高速伝送が可能です。これらのアクセスポイントは、当然ワイヤレスです。
◆ 有線の LAN は、以前は、伝送速度 10Mビット/秒が使われていましたが、最近では、100Mビット/秒以上になっています。ワイヤレス LAN も、11Mビット/秒の、IEEE802.11b (以下単に 802.11b と表記、その他も、これに準じて表記します)が使われてきましたが、最近は、54Mビット/秒の 802.11a 802.11g が使われるようになってきました(図.12)。

[図.12] ワイヤレス LAN の機種

ワイヤレス LAN の機種

◆ これらの伝送速度は、公称の速度です。実効伝送速度 は、3 つの要因によって公称伝送速 度よりも低下します。
第 1 は、フレームとフレームとの間に時間を要することです(図.13(a))。これは、ワイヤレスに限らない、ほとんどの伝送に見られる現象です。
ただし、ワイヤレスの方が、間の空きが大きいので、実効伝送速度の低下が著しいのです。結果として、実効伝送速度は、約半分に低下します。802.11b(11Mビット/秒)が、約 5Mビット/秒、802.11a と 802.11g が、約 20Mビット/秒になります。
◆ 第 2 は、伝送距離が長い、途中に障害物がある、付近にノイズ源があるなどに起因する、伝送速度の低下です。アクセスポイントと端末は、最初は最高速度で伝送しようと試みますが、それが駄目なときは、それで諦めないで、伝送速度を落として伝送します。
第 3 は、複数端末が、同時に送信要求を出したときです。このようなときは、公平になるように、制御されます(図.13(b))。図は、端末が 2 つの場合です。

[図.13] 実効伝送速度の低下

実効速度の低下

◆ 伝送速度54Mビット/秒のワイヤレス LAN は、802.11a と、802.11g の、2 種類あります。どちらが優れているのでしょうか。システム単体では、使い勝手などに差はありますが、それほど大きな差では、ありません。原理的には、伝送距離は、802.11g の方が長いのですが、実際には、大差はありません。
実効伝送速度の差は、複数システムを、同時に使用したときに大きく効いてきます。802.11b と802.11g は、周波数帯が同じですから、同時に送信することができません。それだけでなく、802.11b が 802.11g の足を引っ張って、802.11g の実効伝送速度が、大幅に低下します。ただし、オプションのモードを使用することによって、著しい効率低下を、緩和することが可能です。これに対して、802.11b と 802.11a とは周波数帯が異なりますから、同時伝送が可能です。
802.11a と 802.11g も、周波数帯が異なりますから、同時使用が可能です。1 台のアクセスポイントに、11a と 11g の両方を搭載した製品もあります。 チャンネル数を多く(7 チャンネル)使用できるという、メリットがありますから、オフィスでの利用に適しています。
これとは、別の話として、ワイヤレス LAN と PHS とを混載した製品があります。アクセスポイントの有る場所ではアクセスポイントを使用して高速で、無い場所では低速ですがPHS を使用できます。何時でも何処でも、を満足します。

12.3.(2) ブルートゥース

◆ ブルートゥースは、かなり前からあったのですが、しばらくの間は、鳴かず飛ばずでした。最近になって、普及しています。ブルートゥース は、パソコン、周辺機器、家電、携帯電話などの間のインターフェイスです。デバイスの種類を問いません。ブルートゥースの概略仕様を、図.14 に示します。ブルートゥースは、IEEE の規格になっています。

[図.14] ブルートゥースの概要

ブルートゥースの概要

◆ ブルートゥースは、寸法も小さく(図.15)、使いやすい製品です。(a)はパーム製品 (手の平サイズの携帯端末)への取り付け用、(b)は USB 用です。

[図.15] ブルートゥース外観の一例

ブルートゥース外観の一例(1) ブルートゥース外観の一例(2)


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