データ伝送web講座

5. 絶縁とそのドライバ/レシーバ

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5.3. ドライバ/レシーバ

5.3.(1) ドライバ/レシーバについて

◆ ドライバ/レシーバについては、すでに、3.1. でその概要を、さらに、汎用インターフェース規格に則ったドライバ/レシーバを、3.2.(2)3.2.(3)3.3.(1) に示しました。これらは、ドライバ/レシーバ単体の解説です。
ここでは、絶縁と組み合わせ、周辺回路を含んだ、ドライバ/レシーバ回路を解説します。

5.3.(2) フォトカプラ絶縁回路

◆ フォトカプラ絶縁の場合は、絶縁の上流側、下流側の両方に電源が必要です。この電源は互いに絶縁されていることが必要です。フォトトランジスタ形における、代表的な回路を、図.16 に示します。

[図.16] フォトトランジスタ形における回路

フォトトランジスタ形における回路

◆ 抵抗値の決め方は、ノイズ対策 19.(c1) を参照してください。
伝送系に組んだとき、両側を絶縁するのが望ましいのですが、両側絶縁(a)では、絶縁された電源を必要とします。片側絶縁(b)にすれば、電源を無くすことができます(図.17)。

[図.17] 両側絶縁と片側絶縁

両側絶縁
片側絶縁

◆ (a) は、両側絶縁における、電源を示した図です。(b)は、片側絶縁方式の具体的な回路例です。
この片側絶縁は、絶縁されていない上流側は、耐ノイズ性で劣ります。しかし、図の ※ のところにコモンモードチョークを挿入すれば、両側絶縁に、かなり近い耐ノイズ性が得られます。
フォトカプラは、電流で動作します。このため、この回路は、電流ループ と呼ばれています。
ただし、この回路は短距離用なで、電流値を一定にするための定電流回路は入っていません。長距離用では、定電流回路を使用して、一定電流にしますから、文字通りの電流ループです。
◆ この回路は、平衡ではありません。耐ノイズ性を高くするためには、平衡であることが望ましいのですが、フォトカプラは、それ自体不平衡です。平衡回路にはなり得ません。
しかし、できるだけ平衡に近くなるように、回路が組まれています。ドライバ側とレシーバ側の抵抗は、往きと復りの両方に、等しい値のものが入っています。また、フォトカプラの入力のところにダイオードが入っています。これは保護のためですが、結果的に、平衡性を高めています。
このように、本質的には不平衡であるが、できるだけ平衡性高くした回路のことを、擬似平衡 回路といいます。

5.3.(3) トランス絶縁回路

5.3.(3-A) 基本回路

◆ トランスには、直流を流すことができません。純粋な直流は勿論のこと、交流に直流が重畳するることも駄目です。さらに、デューティーが 50% でない信号も不可です。デューティー とは、図.18のように定義される値のことです。

[図.18] デューティーの定義

デューティーの定義

◆ 図.19 のドライバは、シングル形ドライバ です。シングル形ドライバでは、直流が重畳します。

[図.19] シングル形ドライバ

シングル形ドライバ

◆ その波形を図.20 に示します。

[図.20] シングル形ドライバによる波形

シングル形ドライバによる波形

◆ 直流成分のために、トランスの磁束が飽和しています。このため、激しいサグが観測されます。このトランスは、磁束の飽和が無ければ、十分な ET 積を持ち、サグは発生しないはずのトランスです。
◆ 対策は、直流成分を含まないようにすることです。このためには、トランスに流す電流を双方向にする必要があります。プラスマイナスの 2 電源を使用する方法もありますが、差動形ドライバ を使用する方が実用的です(図.21)。

[図.21] 差動形ドライバ

差動形ドライバ

◆ 差動形ドライバを使用することによって、波形は、図 .22 のように改善されます。

[図.22] 差動形ドライバによる波形

差動形ドライバによる波形

◆ この改善は、パルス デューティが、50% で、直流成分を含まないことに起因します。なお、差動形ドライバは、平衡形ドライバです。これに対して、シングル形ドライバは不平衡です。平衡は、優れた性質です。この点でも差があります。

◆ 図の波形では、クロック信号の伝送はできますが、ディジタルデータの伝送はできません。たとえば、バイフェイズ符号を使用することによって、ディジタルデータを送ることができます。バイフェイズ符号は、50% デューティの信号で、この意味で優れた符号です。

5.3.(3-B) 付加回路

◆ 正常に動作しているときは、図.21 の回路でよいのですが、このままでは、何らかの異常(たとえば、クロックの発振が停止する)によって、トランスに直流電圧が掛かりっ放しになったときに、トランスが焼損します。トランスの電流を制限しているのは、インダクタンス成分です。
インダクタンスは、交流に対しては抵抗として働きますが、直流に対しては、効果がありません。トランスには、トランスの直流抵抗に応じた大電流が流れます。この大電流のために、トランスは焼損します。
◆ 焼損対策として、図.23 に示すトランス焼損防止回路を設けます。

[図.23] トランス焼損防止回路

トランス焼損防止回路(a) トランス焼損防止回路

◆ 図.23 以降に示す各回路には、このトランス焼損回路を含んでいませんが、図を見やすくするために省略してあるのです。焼損の可能性がある場合には、この回路を追加してください。

5.3.(3-C) バス用回路

◆ バスでは、多数のドライバ/レシーバが接続されます。このため、信号レベルが低くなったり、波形歪みが生じることは、5.2.(2-C) で解説しました。この他に、バスにおける問題点として、
◆ (1) バスの途中に接続されているドライバは、電流が双方向に流れますから、電流駆動能力が 2 倍必要になります。
(2) CPU バスのような、短距離のバスでは、各ドライバ/レシーバの電源は共通です。しかし長距離伝送では、電源供給は別々になります。したがって、それそれの電源は、個別にオンオフされます。この結果として、動作状態にあり、互いにデータをやり取りしている、その同一バス上に、使用しないで、電源がオフになっているドライバ/レシーバが、存在することになります。
◆ 電源がオフになっているドライバの出力インピーダンスや、レシーバの入力インピーダンスは、ハイインピーダンスになっていなければなりません。レシーバには、電源がオフのときも、入力インピーダンスが高い機種がありますから、それを使用します(図.24)。

[図.24] 電源オフのときもハイインピーダンスを保つレシーバ

電源オフのときもハイインピーダンスを保つレシーバ

◆ RS422/485 のレシーバは、図.24 の例に比べると、かなりインピーダンスは低いですが、電源オフでもローインピーダンスにはなりません。
ドライバでは、たとえば図.25 に示す対策を講じます。

[図.25] 電源オフ時にハイインピーダンスを保つドライバ

電源オフ時にハイインピーダンスを保つドライバ

◆ 以上、ドライバは、オープンコレクタ形のペリフェラルドライバを使用する例を示しましたが、RS422/485 ドライバを使用することもできます。ただし、ぺリフェラルドライバと比べると、出力電圧が低く、電流駆動能力も少ないのです。耐ノイズ性を高くするためには、ペリフェラルドライバを使用した回路が有効です。

5.3.(4) バイポーラ符号用ドライバ/レシーバ

5.3.(4-A) 基本回路

◆ データ伝送では、伝送用符号として、バイポーラ符号が、多く使用されています。バイポーラ符号 は、広義には、両極性の符号全体を意味しますが、通常は、図.12 に示したものをいいます。
このバイポーラ符号は、ゼロと 1 とを、パルスの有無で識別します。たとえば、パルス無しが、ゼロ で、パルス有りが 1 です。そして、パルス有りのとき、パルスの極性が逐次反転します。(図.26)。

[図.26] バイポーラ符号

バイポーラ符号

◆ バイポーラ符号の特徴は、6.1.4 で行いますが、伝送上、非常に優れた性質を持った符号です。ただし、ドライバ/レシーバ回路は、独特な回路となります。
ドライバ回路の例が、図.27 で、(a)が回路、(b)がそのタイムチャートです。

[図.27] バイポーラ符号用ドライバ回路

バイポーラ符号用ドライバ回路 バイポーラ符号タイムチャート

◆ 入力の RZ は、RZ 符号 と呼ばれる符号です。図に示されてているように、1 のとき、1/2 ビット幅の間が ハイで、後半の 1/2 ビットは、ローになります。ゼロのときは、1 ビットの間、ずっとローです。
(A) から (C)、(D)までの回路が、RZ 符号を逐次反転させて、バイポーラ符号に変換する回路です。
◆ バイポーラ信号の波形を、図.28 に示します。

[図.28] バイポーラ符号の波形

バイポーラ符号の波形

◆ レシーバは、両極性の信号を受けて、それぞれの極性の信号を検出し、その OR を取って、RZ 信号を取り出します(図.29)。

[図.29] バイポーラ符号レシーバ

回路 タイムチャート

5.3.(4-B) はね返りとその防止回路

◆ バイポーラ符号は、優れた符号ですが、一つ問題点があります。それは、トランスに起因する波形歪み(はね返り)が発生した場合に、伝送誤りを起こし易いことです。5.2.図.14 に示したように、バスで多数のトランスを接続した場合には、トランスの 1 次インダクタンスを大きくしないと、はね返りが大きくなります。
◆ この跳ね返りは、バイポーラ符号の場合は、図.30 示すように、伝送誤りを招く可能性があります。

[図.30] バイポーラ符号の問題点

バイポーラ符号の問題点

◆ この問題は、トランスの 1 次インダクタンスが大きいものを選べば良いのですが、接続デバイス数が多い場合は、これがネックになる可能性があります。
はね返りの大きさは、インピーダンスにも依存します。この跳ね返りが発生する期間は、通常のドライバでは、ドライバ出力が、オフの期間です。これを改良して、この期間に、ドライバ出力をローインピーダンスにして、ゼロを出力します。伝送路のインピーダンスが低くなりますから、はね返りが改善されます。
◆ この対策を施した、バス用のトランシーバ回路が、図.31 です。

[注] ドライバとレシーバとを一体化した素子をトランシーバといいます。

[図.31] はね返りを改善したトランシーバ

ドライバ レシーバ タイムチャート

◆ トランスは、3 巻線のものを使用して、ドライバ側とレシーバ側とで分けてあります。
ドライバ側の、RTS は、モデムインターフェース(RS232C)の RTS 信号です。出力電圧がゼロのときにドライバ出力をオンにするのは、このデバイスが伝送を行っているときです。このデバイスが停止しているときは、ドライバはハイインピーダンスにします。この制御を行う信号が、RTS です。
◆ ドライバ側で、トランジスタ(2)と(4)とがオンのときは、トランジスタのコレクタ/エミッタ間に逆電圧が掛かったときも、コレクタ/エミッタ間に電流が流れます。したがって、A と C の期間は、トランスに、正逆いずれの電圧が掛かっても電流が流れます。すなわち、ドライバの出力はローインピーダンスです。
◆ レシーバは、RS485 用 IC を使用した例です。RS485 用レシーバは、シュミットトリガです。RS485 用レシーバの入力スレッショルド電圧は、そのままでは、この用途に使用できません。外付けの抵抗で、バイポーラ信号の入力に合わせて、スレッショルド電圧を補正してあります。
このドライバを使用することによって、はね返りが改善されます(図.32)。

[図.32] 改善された波形

改善された波形

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